第7章 愛情は生きている
カミラの手が伸びて、アリアの腕を掴む。軽く揺らされ、ねぇ、と彼女はまた言った。
「泣かないで」
「し、なないで、」
まるで幼子のようにアリアは泣いた。
イヤイヤと首を振る。鼻水が垂れて、ずずとすすり上げるみっともない音が出た。
「しなないでください、いやだ、しなないで、いきて、いきてください、いなくならないでよぉ」
こんなこと言っても仕方がないのに。カミラだって生きたいに決まっている。でもそれができないから覚悟を決めたんだ。
カミラの手を握りしめて、何度もアリアは言った。
死なないで、と。
カミラはそれを何も言わずに聞いていた。
巨人に何人もの仲間を奪われた。殺された。唯一無二の親友も死んだ。祖父も死んだ。良くしてくれた弟の友人の母親も、尊敬していた先輩も、みんな死んだ。巨人によって殺された。
その死はあっけなかった。この目で死に際を見た人もいれば、人からの言伝で知ったこともあった。多くの戦友は死体すら残らなかった。
仲間の死は、アリアにとっていつか必ず起こることであり、それは逃れようのないことなのだと理解していた。
だが、カミラは違った。カミラは目の前で生きている。生きているのに、死ぬことが決まっている。巨人ではなく病に殺される。それがわかっているのにアリアには何もできなかった。
巨人が相手ならば、そのうなじを削いで助けよう。
人が相手ならば、話し合いや時には暴力を持って助けよう。
けれど、病相手など。アリアができることなど一つとしてない。
「ごめんね、アリア」
カミラは何度も言った。
ごめんね。ごめん。本当に、ごめん