第3章 正しいと思う方を
「っ、はぁっ、はぁ……はぁ、はぁ」
まぶたをこじ開け、アリアは自身の荒い息を聞いていた。
真っ先に目に入ってきた見慣れない天井にしばらく頭が混乱する。やがて昨日の記憶を思い出し、調査兵団の宿舎だと気づいた。
「……嫌な夢」
ぽつりと呟いたアリアの頭の中はさっき見た最悪の夢でいっぱいだった。
入団式でよほど恐怖したのだろう。そのせいであんな夢を見てしまったのだ。まさか親友が巨人に食われるなんて。夢でもお断りだ。
上半身を起こしたアリアは、2段ベッドの下で眠っている仲間を起こさないようにそっと床へ足をつけた。
新兵に宛てがわれたのは当然のごとく5人で使う共同部屋だ。個室など分隊長クラスにもならなければもらえない。
窓際に置いてあった水差しからコップへ水を移し、一気に喉へ流し込む。
カーテンを開けて外を見れば、まだ夜が明けて少ししか経っていないのだろう。オレンジの空と紫色の空の間に細長い雲が横たわっていた。
しばらくぼうっと外の景色を眺めていたアリアだったが、やがて後ろから聞こえてきた物音で目を離した。
「おはよ……アリア、はやいね」
ぽやぽやと寝起きのオリヴィアが舌足らずに言う。
一瞬、夢の中の姿と重なり、アリアは思わず首を横に振った。
「おはよう、オリヴィア。なんか目覚めちゃって」
アリアとオリヴィアの話し声で残りの3人のベッドも動き出した。
同室になったのは同じ訓練地で共に訓練に励んだ仲間たちだった。気心も知っているし、ここで慣れない人と一緒になるよりずっと良い。
「アリアが早起きなんて、明日は槍が降ってくるかもな」
同室の1人、ローズがへらりと笑いながら言った。
「うるさい、ローズ」
寝起きがすこぶる悪いアリアは言い返すこともできず、ただ文句を垂れる。それに「ははっ!」と笑い、ローズは大きく伸びをした。
「ま、今日早起きしちまうのもわかるよ。なんてったって今日は――」
「「所属班の発表」」
いったい自分がどの班に所属し、だれを上司とするのか。
それが今日決まる。