第3章 正しいと思う方を
「………………え?」
少女の口から単音がこぼれ落ちる。
「いやぁあああああ!! やめて!!! 死にたくない!!!」
少女の目の前で、彼女は叫ぶ。
巨人に掴まれ、半身を口の中に突っ込まれた彼女は上半身を振り、絶叫しながら少女へ手を伸ばした。
「たすけて!! たすけて、おねがい!!」
たすける。
そうだ、助けなければ。なんのために訓練を積んできたんだ。助けないと。それができる。助ける術を少女は知っている。
「あ……あぁ、いやだ、いや……しにたくない……おかあさん……兄さん……」
メキメキッと音が聞こえた。彼女の下半身から噴き出した血は彼女の両手を赤く濡らした。両足を食われたのだ。
それでもまだ、少女は動けなかった。
「どうして……? アリア」
彼女の冷たい双眼が少女を見下ろした。刹那、バキィッ、と耳を塞ぎたくなるような音と共に巨人は彼女の体を真っ二つに折った。
鮮血が雨のように少女に降り注ぐ。
まだ生あたたかいそれは少女の髪を、服を、肌を撫でる。
(…………わたしは)
どうして助けなかった?
彼女の残した声と冷えきった目が脳裏にこびりついて離れない。
(……わたしは、ただ)
助けられたかもしれないのに。なぜ。どうして。……いや、答えなど決まっている。
(わたしは)
まるで口紅を塗ったように真っ赤に彩られた唇を、少女は動かした。
「死にたくなかったの……オリヴィア」