第7章 愛情は生きている
その日も、アリアはいつもと変わらない1日を過ごしていた。
早朝にナスヴェッターと訓練をし、偶然一緒になったハンジ班のメンバーと朝食を食べ、また訓練をし、アルミンたちに手紙を書いた。グリュックの世話をして、夕飯を食べようとした時にアリアは違和感を覚えた。
何かが引っかかる。誰かと、今日顔を合わせていない。
「……カミラさん?」
そう。カミラと会っていない。
パンを咀嚼しながらぐるりと食堂の中を見渡す。ガヤガヤといつも通り騒がしいそこに、カミラの姿はない。
体調でも崩したのだろうか。そういえば、昼間に医務室の前を通ったとき何やらざわめいていた。訓練中に人が倒れたとか、言っていた。
「……え?」
猛烈に嫌な予感がした。
食べかけの食事をそのままに、アリアは食堂を飛び出した。
走って目指すのは医務室だ。
まだ倒れたのがカミラだと決まったわけではない。それでもなぜか「そうに違いない」という気持ちがあった。近頃カミラはアリアによそよそしくなっていた。目を合わせて話してくれなくなった。何かしてしまったんじゃないかと、漠然と恐怖を感じていた。
医務室のドアに手をかけ、荒い息を整える。立ち止まった瞬間、全身から汗が噴き出した。心臓の音が体の内側で響く。このドアを開ければ、何かが終わってしまうような気がした。
だが、腕はドアを押した。
「カミラさん?」
一つのベッドのカーテンが閉められていた。真っ白なそれを静かに引いて、声をかける。
どうかこの中で横たわる人が彼女でありませんようにと願いながら。
「……アリア?」
突然カーテンが開いたことに驚いたのだろうか。わずかに目を見張り、こちらを見上げるカミラがそこにいた。
患者衣が布団の隙間から見える。アリアの予感は当たってしまった。
「なんで、ここに?」
アリアには知らせていなかったのに、とその顔は物語っていた。
拳を握り、ぎゅっと目を瞑る。深呼吸を繰り返して、近くにあった椅子に座った。
「今日、カミラさんの姿を見ていなかったので。何かあったんじゃないかと思って」
ゆっくりと告げると、彼女は困ったように眉を下げた。
「心配かけて悪いね。ちょっと無理しすぎちゃったみたいでさ」