第7章 愛情は生きている
金色で縁取られた、薄いブルーの蝶々がそこにいる。少しでも力を入れてしまえば折れてしまえそうなほど繊細なそれを、カミラは恭しく持ち上げた。
「綺麗……」
それは心からこぼれた言葉だった。
あまりの美しさに心が動かされる。カミラにとって、初めてのことだった。
「よかった」
ふ、とアリアは目尻を緩めた。
「カミラさんの使っているバレッタ、ずいぶん古い物のように見えたので……」
「あぁ。これ、訓練兵団に入る年の誕生日に買ってもらったものなんだ。そろそろ買い換えようと思ってた」
言いながら、カミラはするりとバレッタを取った。
よく手に馴染むそれは、細かな傷がそれなりにあった。だが手入れもしているため、どこも壊れてはいない。
「そのバレッタも、カミラさんのイメージにぴったりですね」
手の中で転がしていると、アリアは言った。
一瞬ちらりと彼女を見上げて、目を閉じ口角を上げる。
べっこうでできた、黄金色と深い茶色が美しい髪飾り。
「あたしの一目惚れだったんだ。露店にあって、目が奪われた。これしかないって思った。心から」
カミラはべっこうのバレッタを髪に戻し、もらったほうを丁寧に包み直した。
「でも今日からはこいつと一緒にいることにするよ」
壊れたら嫌だから、普段は大切にしまっとくけど。と言うと、彼女は笑った。つけてくださいよ。もし壊れたら立ち直れない。また買えばいいじゃないですか。アリアから貰ったこのバレッタは唯一無二だ。そう言っていただけるのは嬉しいですけど……。
目が合って、二人は同時にふきだした。
いい加減パンケーキを食べてしまわなければ。
「愛してるよ、アリア」
今までにないくらい真剣な声で言う。
アリアはパンケーキに伏せていた目を上げた。長いまつ毛が音を立てる。飲み込まれそうな青い瞳がカミラを映した。
「ありがとうございます」
いつものように流されるかと思っていたのに。
彼女の表情はあまりにも真剣で、まっすぐで。この気持ちはちゃんと伝わっているのだと理解して、そして、その上で、受け取れないと返された。
カミラは涙を一つ、こぼしてしまった。