第7章 愛情は生きている
「お誕生日おめでとうございます! カミラさん!」
華やかな声だった。カミラはほころぶ頬を必死に抑えながら、食べていたスープから顔を上げた。
「ありがとう、アリア」
朝食を乗せたトレイを机に置き、アリアはカミラの前に座る。お互い今日は非番のため、兵服は着ていない。
前に垂れてきた三つ編みを背中へはねのけ、アリアはにこにこと笑顔で身を乗り出した。
「お出かけ、楽しみですね!」
アリアの笑顔と明るい声を聞いているだけで、味の薄いスープも瞬く間に御馳走へと変わる。
カミラは微笑み、頷いた。
「本当にありがとう、アリア。非番なのに……」
「いえいえ! もともとお誕生日をお祝いしたいと言ったのはわたしなんですから!」
アリアはパンをちぎり、頬張る。口の端についたパンくずを取ってやると、彼女は顔を真っ赤にした。
「かわいいな、アリアは」
頬杖をつき、アリアを見つめる。
アリアと出会って早三ヶ月。カミラは最近、己の中の感情を素直に口にすることにしていた。どうせ叶わぬ恋なのだ。これくらい許されるだろう。
アリアは頬を染めたまま柔らかく笑った。
それは、友へ向ける笑み。カミラは知っている。彼女が愛する人にどんな微笑みを向けるのか。知っているから、これは違うとわかる。
「じゃあこれを食べて、準備したら正門前に集合でいいね?」
「はい! また後で」
カミラは朝食を平らげると、立ち上がった。手を振ると、アリアも手を振り返す。
暗い気持ちは今は必要ない。
なんてったって今日は、アリアとの“デート”の日なのだから。
「リヴァイ兵長、おはようございます!」
「あぁ。……向かい側、いいか?」
「もちろんですっ」
食器を戻し、食堂を出る直前に聞こえてきた声。
振り返る勇気は、カミラにはない。