第7章 愛情は生きている
(自惚れてもいいのなら)
リヴァイたちは帰りの馬車に揺られていた。
はしたないかもしれないが、と前置きしてからヒールを脱ぎ捨てたアリアは、壁にもたれて眠りこけている。
行きはリヴァイの隣に座っていたのに、今は対角線上に座っている。気持ちはわからないでもないが、多少なりともショックだ。エルヴィンは訳知り顔で笑った後、本を読み始めてしまった。
ひんやりとした馬車の窓に顔を寄せ、ぐんぐん移り変わる街の景色を眺めた。
リヴァイの脳裏にあるのは庭園でのアリアの姿だった。
(アリアはおそらく……)
リヴァイとアリアは相思相愛である。
この事実にリヴァイは気づいてしまった。半ば確信的な気持ちで。
だがリヴァイは、好きな人と両思いだった! と浮かれるほど子供でもない。
もし仮にリヴァイもアリアも兵士ではなく、たとえばただのパン屋とただの村娘であったのなら。喜び、なんの躊躇いもなく告白をしていただろう。……たぶん。自分がパン屋なんて想像できないが。
しかし、リヴァイもアリアも兵士だ。
いつその命を落とすかわからない。しかも同じ班の上官と部下。いざという時に命の優先順位を迷ってはいけない。
そんな状態で告白などしても断られるに決まっている。上官としての尊厳を失う可能性だってある。
これがリヴァイの一方的な片思いであったのならどれだけよかったか。
ため息をつくと窓が白く曇る。
ゴシゴシと袖でぬぐい、再び外の景色に身を委ねる。
「何か悩み事か?」
本から顔を上げたエルヴィンが言う。リヴァイはふんっと鼻を鳴らした。
「いいや」
この男にだけは口が裂けても相談できない。
生暖かい目で微笑まれるだけだ。
瞬きを繰り返す。久しぶりに飲んだアルコールと馬車の心地良い揺れのせいで眠気が顔を覗かせた。
「兵舎まではまだある。寝ても構わないぞ」
「……あぁ。そうさせてもらおう」
リヴァイはその日心に決めた。
彼女への想いは決して外には出さない、と。それが最善であると信じて。