第3章 正しいと思う方を
「貴様らはなぜ調査兵団に入ろうと思った」
重く、低い声がアリアを打つ。
息をするのさえはばかられるような沈黙が広場に満ちた。
「調査兵団に憧れたか? 巨人を倒し、名誉を得るためか? どんな理由にせよ、貴様らは壁外調査に出たときにその理由を忘れるはずだ」
キースの後ろにずらりと調査兵団の幹部が並んでいる。
エルヴィンもその中にいた。新兵たちを見渡し、1人1人の顔を見ていた。
一瞬アリアの顔に留まり、すぐに逸らされた。
「どれだけ訓練を積もうと、強い意志があろうと死ぬときは一瞬だ。死ぬときは1人だ。死ぬとき、貴様らの頭の中をなにが満たすと思う? ……それは恐怖だ」
震えが腹の底からのぼってくる。
アリアはかすかに震え始めた手を止めるように握りしめた。
想像はしていた。巨人の恐怖を理解したつもりでいた。だが何度も巨人と遭遇し、仲間を目の前で亡くしていった者の発言はずっしりとアリアの心に落ちた。
「そこで今一度問う」
キースは兵士を見回し、息を吸った。
「貴様らはなぜ調査兵団に入る?」
アリアは弟の願いを叶えるために入る。
オリヴィアは兄の無念を晴らすために入る。
それはアリアたち自身の想いではない。人のためだ。言うなれば他人のために調査兵団に入るのだ。
死ぬとき、自分はなにを思うのだろうか。
(わたしは……死ぬとき、調査兵団に入ったことを後悔するだろうか)
「今、調査兵団への入団に恐怖を感じた者はここを去ったほうがいい。まだ死にたくないのならここを去れ」
だれだって死にたくはない。
でも調査兵団に入り死ねるのならばそれは本望だ。後悔など、しない。するはずがない。
(わたしは、ここに残る)
ここに残ってアルミンに海を見せる。それまで絶対に死ぬわけにはいかないんだ。
「後悔は……ないようだな」
唇を結び、顔を青くさせた兵士を見渡し、キースは頷いた。
「――これが本物の敬礼だ」
右手に握りしめた決意と共に、アリアらは声を揃えた。
「心臓を捧げよ!」