第7章 愛情は生きている
指先で髪の毛を引っ掛け、そのまま耳へかける。
一連の動作中、アリアは身動きひとつしなかった。ただじっと石のように固まってしまっている。
「髪が落ちていた」
これでよし。リヴァイは満足げに頷いてアリアを見た。
「……おい」
目を見開くリヴァイの前で、アリアの顔は熟れたりんごのように赤くなっていた。見事に首元から額の先までぽぽぽ、と彩られていく。
と、とリヴァイから一歩離れ、髪をかけた方の耳を手で覆う。ぎゅっと握りしめたせいでまた髪型が崩れた。
「ご、ごめんなさい、あり、ありがとうございます。はは、恥ずかしい、限りです。か、髪の毛が崩れてるのに気づかないなんて」
ほんと、何やってんだろ、ごめんなさい、あの、わす、忘れてください……。
最後の方はほとんで聞き取れないほど小さな声だった。
なんと声をかけるのが正解か悩むリヴァイに背を向け、アリアはパーティー会場へ戻る階段を登り出した。今来たばかりなのに。
「そろそろ戻りますね。やっぱり、急にいなくなったら、ほら、エルヴィン団長もびっくりするんじゃないかなって」
早口に、こちらの顔も見ずにアリアは言い切った。
だが背を向けていても彼女は耳の裏まで赤くしていたし、何より動揺で足元がおぼつかなかった。
「アリア」
リヴァイはわざと強めにアリアの名前を呼んだ。
今この瞬間気づいてしまったことの確証が欲しかった。
アリアは足を止めたが、振り返りはしなかった。だがそれでも構わない。こちらの言葉が聞こえているのならそれでいい。
「ハンジに邪魔されて言いそびれていたが」
びく、とアリアの肩が分かりやすく跳ねた。
「そのドレス、お前によく似合っている」
アリアを見上げ、深く息を吸う。そうであってほしいと柄にもなく願いながら。
「綺麗だ」
耐えきれず、と言うようにアリアが振り向いた。相変わらずその顔は真っ赤で、唇がかすかに震えていた。
軽い足取りで彼女の隣に向かい、片手をとる。
「足元に気をつけろ」
「……はい」
絞り出された声に、リヴァイは唇を噛み締めた。