第7章 愛情は生きている
カツン、カツン、と一段一段踏み締めるようにアリアは階段を降りる。よほど集中しているのかリヴァイの手を握る力は強い。
「あと一段だ」
「は、はい」
だがその声かけが悪かった。
あと一段で終わると知って、アリアの体から力が抜けた。刹那、ヒールが滑る。あっと思う間もなかった。
咄嗟に左手を出して、アリアの腰に手を回す。前へ倒れていく彼女の正面に立って、その体を受け止めた。
日頃から鍛えられているリヴァイの体幹は一切揺らがない。
アリアの体はリヴァイの胸の中におさまり、二人ともしばらく沈黙した。
「ご、ごめんなさい!!」
最初に声を発したのはアリアだった。
悲鳴にも近い声で言い、大慌てでリヴァイから離れようとする。
「怪我は?」
腰に回していた手は離し、しかし繋いだ右手はそのままだった。
またいつアリアがこけるともわからない。アリアがその手を振り払うことはなかった。
「な、ないです」
繋いだままの手を一瞬見て、アリアは小さな声で答えた。
「ならいい。注意して歩け」
「はい」
一方のリヴァイは、平静を装ってはいるが心臓がうるさいくらいに騒いでいた。空中から落ちそうなアリアを抱えたことはあっても、真正面から体に触れたことはない。何度か深呼吸を繰り返し、アリアの体の柔らかさを忘れようと努める。
「これ、全部同じ花なんですか?」
アリアの弾むような声に我に返った。
アリアは一面に咲くカーネーションを見て、目を輝かせていた。
「あぁ。カーネーションらしい」
「へぇ! とっても綺麗ですね」
アリアの手を軽く引き、花畑に近づく。
花には詳しくないリヴァイだったが、アリアの言う通り、この花畑は美しいと思った。
「変な虫がいるかもしれねぇ。気をつけろよ」
「はい!」
元気に返事をしたアリアは言いつけ通り、それ以上近づくことはない。
アリアの隣に立ち、リヴァイはそっとアリアの横顔を盗み見た。
「アリア」
丁寧に結われた髪が一房垂れているのを見つけた。
声をかけると、アリアがリヴァイの顔を見上げた。