第7章 愛情は生きている
この屋敷には庭があった。テラスから出ることができ、庭一面には色とりどりのカーネンションが咲いている。
サネスと別れ、リヴァイは庭に繋がる階段を降りていた。
満月が夜空に浮かび、庭全体を明るく照らす。雲の一つもない。
「リヴァイ兵長、ちょっと待ってください!」
さく、と庭の土を踏み締めたとき背後からアリアの焦った声がした。
振り返ると、彼女は階段の真ん中で肩で息をして止まっていた。
「どうした?」
ただ広間を歩いていただけだがそれだけで疲れたのだろうか。
疑問が顔に出ていたらしい。アリアは息を整えて、申し訳なさそうに眉を下げた。
「高いヒールに慣れてなくて、歩くのも精一杯なんです」
その言葉でようやく納得した。
確かに今日のアリアは歩くスピードがかなりゆっくりだった。時たま痛そうに顔をしかめてもいた。その原因がまさかヒールだったとは。
「気がつかなくて悪かった」
もしエルヴィンならこんなことにはなっていなかっただろう。気配りができ、紳士的なあの男ならすぐにアリアの異変に気づいていたはずだ。
エルヴィンなら、こんなときどうする?
しばらく考えて、リヴァイはアリアの近くまで階段を登った。
「すみません、歩くのが遅くて……」
リヴァイに迷惑をかけていると思っているらしい。アリアの顔には焦りと羞恥が浮かんでいた。
「気にするな」
言って、アリアに右手を差し伸べる。驚いたような顔になったアリアはその手とリヴァイの顔を見比べた。
「降りるのが大変なら俺が手伝う。無理はするな」
エルヴィンなら迷いなくアリアの手をとり、その歩みをサポートしたはずだ。
アリアは少し迷うそぶりを見せた後、リヴァイの手に己の左手を重ねた。
「ありがとうございます」
俯いてしまい、アリアの表情が見えなくなる。
だが声の調子からして不快な気分ではないのは確かだ。
リヴァイは心の中で安堵の息を吐き、そのままゆっくりと階段を下った。