第7章 愛情は生きている
本当に、さりげなく。あまりにも自然に。
手が、握られた。
アリアは自分の左手を見下ろす。それはきっとアリアとはぐれないためだろう。それはきっとアリアの歩くスピードが遅いからだろう。
それでも、嬉しいことに変わりはない。
アリアはにやけそうになる口元を引き締めた。
前を歩くリヴァイの顔は見えない。だが、彼のことだ。意識すらしていないにちがいない。それが少し悲しい。
ふっと俯いてしまった。肩にぶつかる衝撃。
「お、っと」
「も、申し訳ありません」
咄嗟に謝る。アリアの足が止まったことにより、繋がれていた手は離れてしまった。
「いえ、こちらこそ。お怪我は?」
「どうした、アリア」
リヴァイが怪訝そうに振り返る。
アリアはぶつかってしまった男の顔を見上げた。
「いえ、」
見上げて、固まった。
「……もしや、特別作戦班の方々ですか? お噂はかねがね伺っていますよ」
男は笑う。リヴァイは眉をひそめて「そうか」とだけ返す。
男は憲兵団のジャケットを着ていた。貴族ではない。
「申し遅れました。中央憲兵のジェル・サネスと申します」
ズキン、と頭の片隅が痛んだ。思わず押さえ、痛みに耐える。
アリアはこの男を知っていた。どこかで見たことがあった。だが、思い出せない。
この声を、この顔を、このジャケットを、アリアは確かに見たことがあるのだ。
「今後とも、我が王のために奮戦を期待していますよ」
敬礼をして、サネスは人混みに紛れて消えていった。
「アリア?」
静かに痛みが引いていく。気味の悪い感覚だった。
リヴァイの声にアリアはゆっくりと頭から手を離した。
「平気か?」
「……はい。たぶん人に酔ってしまったんだと思います」
きっとこれはただの勘違い。きっと。
「下手に利口な教師から、王を脅かすような銃を作ってやがったジジイ共も、空を飛ぼうとした馬鹿な夫婦も、田舎の牧場にいた売女も……!」
軋む音がしてドアが開いた。
⠀ あぁ、そうか。
あのときの頭痛の訳をようやく理解した。