第7章 愛情は生きている
途中、広間を練り歩くウェイターからシャンパンとクラッカーをもらい、壁際に立った。何も持たずにこんなところに立っていたら怪しまれるだけだからだ。
ふぅ、と息を吐き、一刻も早くこのドレスを脱ぎ去りたいと思った。
ヒールは足が痛いし、ドレスの締めつけのせいで息苦しい。汗が一筋首を伝うのを感じた。
カミラにやってもらった髪も乱れているかもしれない。
壁にもたれ、サクッとクラッカーをかじる。
きっと高級で美味しいはずなのに、今のアリアは兵舎の食堂で食べられる薄味のスープが恋しかった。
(やっぱり、断ればよかったかも)
この場所は、アリアには合わない。
ドレスを着せてもらった時はあんなにもワクワクしていたと言うのに。
貴族の世界とはどんなものなのだろうかと心躍らせていたのに。
(実際はこれ)
みんな金のことしか頭にない。どれだけ己が得をするかしか考えていないのだ。貴婦人方もそう。第一に男。第二に金。少しでもかっこいい男を捕まえようと躍起になっている。
今日のことをアルミンに詳しく話そうと思っていたがやめておこう。
こんな現実、アルミンも見たくないだろうから。
「そこのお嬢さん」
疲れて目を瞑ったとき、アリアの目の前で磨き上げられた革靴が止まった。人数は三人。
アリアは無理やり口角と顔を上げた。
「お一人ですか?」
「暇なら俺たちとお話しませんか?」
「調査兵団の精鋭だとか。どのようなご活躍をしたのかお教えください」
恭しく頭を下げる三人に、アリアは心底困った。
下心オーラがアリアに見えたからだ。
エルヴィンには無視してもいい、と言われたが相手のプライドを傷つけず無視する方法なんてアリアは知らない。
「えっと……」
「あぁ、緊張なさらないでください。この屋敷の庭園に美しい花が咲いているのです。それを鑑賞しながら、どうでしょう?」
下手に出ているが、その目は「断るな」という圧に満ちている。
手汗で持っていたグラスが滑る。走り去ってしまおうか、と考えた時、三人の肩越しにリヴァイが歩いてくるのが見えた。
「おい」
ぴた、と男たちの背後で止まったリヴァイは低く、唸りのような声を出した。