第7章 愛情は生きている
カツン、カツンとヒールが地面を叩く音が廊下に響く。
カミラはアリアの右手をとり、ゆっくり歩いていた。慣れない高いヒールに悪戦苦闘するアリアはそれでも美しかった。
瞳と同じブルーのドレス。ベルラインが綺麗で、胸元には髪に飾ったのと同じ花の飾りがあしらわれている。ふわふわと広がるレースはさながら湖に浮かぶ白鳥のようだ。
「綺麗だよ、アリア」
心の底からの言葉を紡げば、アリアはへにゃりと笑った。
カツン、と音が止まる。
玄関ホールへの階段の上で立ち止まった。見下ろすと、そこにはすでにリヴァイとエルヴィンが待っていた。二人とも兵服ではなく、上等そうなタキシードを身に纏っている。
二人は同時にアリアに気づき、揃って目を見開いた。
「アリア」
真っ先に声を取り戻したのはエルヴィンだった。
カミラの手を握り、慎重に階段を降りるアリアに手を伸ばす。ここからは紳士どものお仕事だ。
「行ってらっしゃい、アリア」
「はい、ありがとうございます。カミラさん」
華やかに笑い、アリアは伸ばされたエルヴィンの手をとった。
「とても似合っているよ」
エルヴィンが囁くと、アリアは鼻の頭をくしゃくしゃにした。
カミラはエルヴィンからリヴァイへ目線を移す。まだアリアを見て呆けていた。それを見ているとムカムカと怒りが湧いてくる。
ズンズン階段を降り、リヴァイの目の前で立ち止まる。ようやく彼の目線の焦点がカミラに合った。
「アリアを頼みましたよ、リヴァイ兵長」
わざと刺々しい声を出す。ぶくぶくと太った貴族たちがアリアの元に群がるかと思うと虫唾が走った。鬱陶しい蟻たちからアリアを守れるのは今回のパートナーであるリヴァイしかいない。
その意味も込めて言うと、リヴァイは唇を引き結び、頷いた。
「当たり前だ」
ふっとリヴァイが踏み出し、アリアの元へと向かう。
歪んだ顔をアリアに見られないように、カミラは急いでその場を後にした。これ以上ここにいるのは耐えられなかった。
近づいてきたリヴァイを見るアリアの目を見てしまったから。
(あんなの、あんなの)
恋する乙女そのものだ。