第3章 正しいと思う方を
「アリア! やっと来た!」
訓練兵団の兵舎についたアリアは大慌てで馬を厩舎に繋ぐと、指定されていた第1広場へ走った。
そこにはすでに何人かが集まっており、その中にオリヴィアが不安そうな顔で立っていた。
「ごめん! 家族と話してたら遅れちゃった!」
「ほんとに……しょうがないけどさ。……ん? アリア、目が赤いけどどうしたの?」
「ううん。なんでもない」
不思議そうな顔をするオリヴィアにアリアは手を振り、笑って誤魔化す。
帰り道、馬に乗りながら泣いてしまったことはだれにも言えない。
「キース団長とかはまだ来てないの?」
日は暮れ、闇夜が空を覆っている。相変わらずかがり火はパチパチと音を立てていて、青白い顔の訓練兵を照らし出す。
アリアが辺りを見渡しながら呟くと、オリヴィアは首を横に振った。
「たぶんもうすぐよ。……はー、緊張する!」
よっぽど緊張しているのか、オリヴィアは両手を擦り合わせている。
オリヴィアの気持ちは痛いほどわかった。
これから自分たちは自分自身で調査兵団を選ぶ。死への最短ルートを選ぶのだ。後悔はないが、緊張しないかと言ったら嘘になる。
ほかの仲間たちも希望に満ちた顔をしているかと聞かれれば否だ。
「……足音、聞こえるね」
しばらく黙っていた2人だったが、聞こえてきた物音にごくっと唾を飲み込んだ。
複数人の足音、喋る声。
兵士たちが一斉に全身に力を込めた。
薪が弾ける。虫の声が遠くから聞こえる。ほかの兵団の入団式は始まっているのだろう。少し離れた場所で憲兵団の団長の声が響いていた。
「第12代調査兵団団長、キース・シャーディスだ」
後ろで手を組む訓練兵の前に立った男、キースは厳しい顔でアリアたちを見下ろした。