第6章 お前が雨に怯えるのなら
「縁起でもないことをごめんね」
「いえ。わたしも昔、親友が巨人に食われる夢を見たことがありますし」
調査兵団になるとみんなが一度は誰かを食われる夢を見るのかもしれない。
アリアは薄く笑った。
「昼の戦いが尾を引いているのかもしれない」
「昼?」
言いながら、アリアは「あぁ」と口の中でつぶやいた。
巨人の背中に飛び乗り、うなじを直接狙った時のことだろう。申し訳なさが心の中で膨らむ。
まさかそれほど心配をかけていたなんて思っていなかった。
「ごめんなさい」
ちいさく謝ると、ナスヴェッターは首を横に振った。
「君のせいじゃない。僕が心配しすぎなんだよ。そんなに心配しなくても、君は強くなったんだから」
リヴァイとエルマーの訓練のおかげで多少はアリアもうまく立ち回れるようになったのかもしれない。だがそれは壁内での話だ。
エルドの言葉を思い出し、アリアは俯いた。
慢心していたのはアリアもまた同じだった。オリヴィアを失った時から何も学んでいない。
「わたしはまだまだですよ。心配してくださってありがとうございます。もっと心配してください!」
「え、えぇ?? そりゃやめろって言われても心配し続けるけどさ、そこはもっとこう、もうナスヴェッターさんに心配かけないようにします! とか言うところじゃない?」
「ふふっ、それわたしのモノマネですか? 全然似てませんよっ!」
「そ、そう? 他のみんなからは似てるって言われたんだけど」
「え」
アリアとナスヴェッターは顔を見合わせ、同時に噴き出した。
笑い声はひそめて、でも笑顔は引っ込めないで。
笑いがおさまる頃には、夢の名残は消えていた。