第6章 お前が雨に怯えるのなら
アリアは弾かれたように目を開けた。
しばらく身動きができなかった。自分の息遣いが耳元で鳴る。ジンジンと恐怖と痺れがアリアの体を離さなかった。
「ゆ、め……」
外ではフクロウが鳴いている。
だるい体を起こして見渡すと、そこは天幕の中だった。向かいの寝袋の中ではニファが涎を垂らしながら眠っていた。まだ夜は明けていない。
ため息をつき、アリアは寝袋から這い出した。
(やな夢みちゃったな)
エルドの包帯を替えた後、ちゃんと天幕に戻ったはずなのに。
あんな夢を見てしまうなんて思いもしなかった。
夢の名残を消すように頭を振る。天幕から出て、キンと張り詰めた夜の空気を吸うといくらか気分は楽になった。
「アリア?」
すぐ隣の天幕から名前を呼ばれた。見ると、ナスヴェッターがいた。
「ナスヴェッターさん」
「もしかして、眠れないの?」
「……はい。ちょっと怖い夢を見ちゃって」
アリアが素直に答えると、彼はわかる、と言うように頷いた。
「僕もだよ。少し歩かない?」
アリアはそれに同意した。
このまま眠れるとは思っていなかったからだ。
ナスヴェッターと並び、拠点内をぐるりと歩き出す。不審番の兵士が興味深そうにアリアたちを見下ろしていた。
「調査兵団にいるはずのない弟が巨人に食われてたんです」
ポツリ、とアリアはこぼした。思い出すのすら恐ろしい夢だったが、それでも言葉にしたかった。
「弟は顔の上半分と右腕を負傷していて、口から血を吐いてわたしに助けを求めるんです。……本当に、怖かった」
「僕は」
細い月が足下を照らす。長く伸びた前髪の隙間から、ナスヴェッターの目はアリアを見下ろした。
「君が死ぬ夢を見た」
一瞬、言葉に詰まった。
それを察知したのか、ナスヴェッターは緩く笑う。