第6章 お前が雨に怯えるのなら
替えた包帯はまた捨てておこう。
エルドが目を瞑ったのを確認し、アリアは立ちあがろうとした。
しかし、それはできなかった。
「どうしましたか?」
すぐ近くで寝ていた兵士がアリアの兵服を掴んだからだ。
屈んで囁く。顔半分と右腕を包帯に覆われた兵士は乾燥した唇をアリアの耳に寄せた。
「たす、けて」
その声を聞いた瞬間、心臓が握りつぶされたような心地がした。
包帯の隙間から覗く青い瞳を、床に散らばる金髪を、服を掴む白くて小さな手を、助けを求める声を、アリアはよく知っていた。
「たすけてよ、ねえさん」
「ア、ルミン……?」
包帯が瞬く間に解ける。
鼻から上の顔の皮がなかった。ぎょろりと飛び出した目は血走っていて、アリアを睨みつける。アリアの手をよく握ってきた右手は肘から下がない。巨人の歯形があった。
(ちがう、おかしい、こんなの)
どぷ、とアルミンの口から血が吐き出される。
苦しそうに咳き込みながら、それでも彼はアリアから目を逸らさなかった。
「たすけてよ、いたい、いたい、くるしいよ」
真っ赤に染まった口内がアリアの前に開かれた。
「姉さん」