第6章 お前が雨に怯えるのなら
パチパチと篝火が爆ぜる。アリアは汚れた水の入った桶を抱えて歩いていた。
拠点を設置し、今日はここで泊まると決まってから3時間が経っていた。
あのあと、最初の少なさはなんだったのかと言いたいほど、大量の巨人が出現した。アリアもナスヴェッターも全員が奮戦した。
結果、数人の負傷者を出して死地を脱することができた。
アリアはかすり傷程度の負傷だった。
負傷者が運び込まれている天幕の中にはやはりうめき声が満ちていた。
それでも以前アリアが体験した時とは少し違う。負傷者が圧倒的に少なかった。これも、エルヴィンが団長になったからだろうか。
忙しく働く衛生兵から桶の水を替えてくるように頼まれ、アリアは近くの川辺まで歩いていたのだ。
何があってもいいように腰につけた立体機動装置がやけに重く感じる。早く休みたいと心から思った。
水を取り換え、天幕を押して入る。
途端にむわっと血の匂いと汗の匂いが鼻をついた。
「水、替えてきました」
「あぁ、ありがとう。すまないが、あそこの兵士の包帯を変えてくれないか」
「わかりました」
アリアは頷き、衛生兵から包帯を受け取ると言われた通り、一人の兵士のそばにしゃがんだ。
「失礼します。包帯を替えてもいいですか?」
「は、はい。お願いしますっつぅ……」
アリアの声を聞き、起きあがろうとした兵士は痛みでうめく。
気遣うように背中に手を回し、起き上がりやすいようにした。
「どこを怪我したか教えていただけますか?」
「えっと、巨人に掴まれて肋骨にヒビが……」
「わかりました」
持ち歩いていたランプを手元まで引き寄せる。
光の下に浮かび上がった兵士の顔は意外にも若かった。新兵、だろうか。
「わたしはアリア・アルレルトと言います。あなたは?」
包帯を替えている間、気がまぎれてくれればと思いながら問いかける。
大柄な、柔和な目元をした兵士は小さいがよく通る声で答えた。
「エルド・ジンと言います。三ヶ月前、入団しました」