第6章 お前が雨に怯えるのなら
逃げる隙などなかった。
ほとんど無意識のうちに体は動き、握っていたブレードを2本とも巨人の眼球へと突き刺した。
巨人は痛みで悶え、アリアから意識がずれる。新たなブレードを装着し、アンカーを微かに見える巨人の足に刺し、そのままワイヤーを巻き取った。すれ違いざまに片腕を切断する。片方の支えを無くした巨人は無様に地面に倒れ込んだ。
この隙を逃すことなどできない。
アリアは倒れた巨人の背中に飛び乗った。
「アリア!」
ナスヴェッターの焦った声が聞こえる。だが、アリアは止まらない。
目標の首へと走る。
(腕が修復される前に、早く!!)
ガラ空きのうなじ目がけて、アリアはブレードを突き立てた。
ひし形にえぐる。血が全身に飛んだ。やがて巨人は、アリアの足の下で蒸気を上げて動かなくなった。
「っはぁ、はぁ、はぁ……」
荒い息を繰り返し、目元の血だけを拭う。あとは勝手に蒸発してくれるのを待とう。
「アリア、移動しよう。他の巨人が寄ってくる」
「はい!」
ブレードをしまい、少し離れたところで佇むグリュックを呼んだ。
ひらりと飛び乗り、索敵班らと別れを告げ、持ち場へと走った。
「アリア」
その最中、硬い声でナスヴェッターはアリアの名を呼んだ。
無茶したことを怒られると身構えたアリアは恐る恐るナスヴェッターを見た。
「結果的にはうまくいったけど、一歩間違えれば食われてたかもしれない」
「……はい」
「もう一体の巨人に気づけなかった僕も悪いけど、でも、あんな捨て身の闘い方はやめてくれ」
そうだ。別にあの場で止めを刺す必要はなかったのだ。
巨人の動きを止められたのだから、あとは訓練通り団長へ赤の煙弾を打ち上げれば、それで。
「申し訳、ありません」
行き過ぎた行為だったと反省はしている。だが後悔はしていない。
アリアは初めて、一人で巨人を討伐できたのだから。