第6章 お前が雨に怯えるのなら
「ここは僕の、君の故郷があった場所だ」
ナスヴェッターの声が沈むのを感じ、アリアは目を伏せた。
この場所はアリアも何度か来たことがあった。実家へ帰るときによく通った道だ。
民家は巨人に踏み潰され、人の気配のないこの場所は記憶とはずっとかけ離れていたが、それでもアリアは覚えていた。
ナスヴェッターは強い意志のこもった目でアリアを見た。
「絶対に取り戻そう」
その言葉にアリアも頷く。
「必ず」
アルミンから巨人襲来がどのような様だったのか聞いていた。
超大型巨人に鎧の巨人。正体不明の二体があっという間にシガンシナ区を、ウォールマリアを地獄に変えた。
沸々と怒りが湧いてくる。
どれだけ強い敵だろうと、何がなんでも殺してやる。
「アリア、ナスヴェッター。そろそろ出発だ」
リヴァイが言う。それに頷き、アリアは鼻を鳴らすグリュックに乗った。
* * *
補給地点を出て一時間。
すぐ近くで黒の煙弾が打ち上がった。この近さでは移動している間に追いつかれてしまう。
「アリア!」
「はい!」
アリアはグリュックの上に伏せ、ナスヴェッターと共に煙弾の上がった方へと駆けた。
しばらく走るとそいつはいた。周りの索敵班を無視し、真っ直ぐに陣形の中心へと向かっている。ブレードを抜く。
「わたしが足を狙います!」
「了解!」
アリアはグリュックから飛び上がった。
周りに建物はない。アンカーを直接巨人へと刺す。ギュルルッとワイヤーがしなり、ガスによって背中を押された。
握りしめたブレードが日光に煌めく。地面と並行に滑り、流れるようにアキレス腱へと刃を這わせた。
返り血が顔面にかかる。それを乱暴に拭い、巨人のうなじを見上げたと同時にナスヴェッターがブレードを振るった。
「アリア!」
安心したのも束の間、ナスヴェッターがアリアを見下ろし、叫んだ。
背後から地鳴りが聞こえる。振り返る。眼前に巨人の汚い歯があった。