第6章 お前が雨に怯えるのなら
アリアとナスヴェッター。
カミラとエルマー。
そしてリヴァイ。
この3グループに分かれ、奇行種の討伐と増援へ向かう。
それが今回の壁外調査の任務だった。
前方でエルヴィンは右腕を横へ出す。
「長距離索敵陣形、展開!!」
アリアはナスヴェッターと目を見合わせ、グリュックを右に傾けた。
ざぁ、と他の兵士たちも持ち場へと散らばっていく。きちんと全員の姿が見えるのを確認し、アリアは腹に力を込めた。
ここからはいつ巨人と出くわすか、わからない。
気を引き締めよう。
* * *
赤い信煙弾が数本上がる。その度にエルヴィンが緑の煙弾を撃ち、アリアたちは次の補給地点に着くまで一度も巨人と遭遇しなかった。
比較的巨人の出現率が低いのかもしれない、
だが油断はしてはいけない。
アリアはグリュックに水を与えながら空を見上げた。
快晴だ。夏を通り越し、秋が近づいてきた空は美しい。雨も降る気配はなさそうだ。
ふう、と息を吐いて腰を伸ばした。
いくら巨人との戦闘がなかったとはいえ、心は張り詰めっぱなしだった。
疲れが少しずつ溜まっているのを感じる。
「アリア」
野戦糧食を一欠片口に放り込み、ナスヴェッターが近づいて来た。
そういえば、今朝のナスヴェッターは緊張で朝食を食べていなかったな、と思い出す。
「大丈夫? 何か体の不調があったらすぐに言うんだよ?」
「はい。ありがとうございます。ナスヴェッターさん」
にこりと笑うと、彼も安心したように微笑み、辺りを見渡した。
すぐ近くでリヴァイが馬の世話をしている。カミラは友人と談笑し、エルマーは立体機動装置の点検を行なっていた。
少し遠くで、はしゃいだらしいハンジがモブリットとニファに怒られている。エルヴィンの姿は見当たらない。おそらく天幕の中にいるのだろう。
「……僕はウォールマリアにある小さな村の出身なんだ」
だがナスヴェッターは仲間の姿を見ていたわけではなかったらしい。
彼の視線はどこまでも続く大地を見つめていた。