第3章 正しいと思う方を
「アルミン、アリアに渡すものがあるんだろう?」
渋りながらもアリアから離れたアルミンは、祖父の言葉にポケットの中に手を入れた。
なんだろう、と首を傾げるアリアの前でアルミンはかわいらしい包装のされた平べったいものを取り出した。
「これ、姉さんに渡そうと思って」
差し出されたそれを受け取り、「開けてみてもいい?」と聞くと、アルミンはこくんと頷く。
これまたかわいいリボンをするするとほどいていく。中には1枚のハンカチが入っていた。
純白の生地に縁にはレースがついている。
「これ……」
「頑張ってお金貯めて買ったんだ。姉さんに使ってもらいたくて」
広げてみると、ハンカチの右下に「アリア・A」と刺繍が施されていた。
その刺繍はプロがやったものではなく、線はガタガタで形もまちまち。裁縫に不慣れな者がやった刺繍のようだ。
「アリア・Aって、わたしのイニシャル?」
「うん。ぼくがやったんだ。下手くそだけど……これがあったら、ぼくも、ぼくも姉さんのそばにいられるかなって、思って」
たどたどしく、不器用な自分を恥じるようにアルミンは俯き言った。
その様子に胸がきゅっと締めつけられる。アリアはもう一度アルミンを抱きしめた。
「ありがとう、アルミン。大事にする。ずっと使うよ」
「うん。使って!」
ぎゅう、ときつくアルミンを抱きしめ、アリアはこぼれそうになる涙をこらえた。
ここで泣いてしまったらアルミンを不安にさせてしまう。我慢しないと……。
アルミンを離し、アリアは口角をあげた。
「じゃあそろそろ行くね。手紙書くからね、元気で、ミカサとエレンとも仲良くしてね。……大好きだよ、アルミン」
アルミンも涙をこらえるために唇を噛んでいた。しかしもうこぼれはしない。力強く彼は頷いた。
「姉さんも元気でね。無理しないでね。……ぼくも、大好き」
アリアは祖父も抱きしめ、ひらりと馬に飛び乗った。
「行ってきます」
馬の腹を蹴り、アリアは駆ける。
アリアの背中が夕日で赤く染まっていく。
見えなくなるまでアルミンはずっと見守っていた。