第6章 お前が雨に怯えるのなら
わたしのお母さんとお父さんは気球で壁の外に行こうとしてた。
わたしもおじいちゃんも止めたけど、二人はそれを聞こうとしなかった。まだ生まれて間もないアルミンはおじいちゃんに預けて、わたしは二人と一緒に気球に乗った。
そしたら、突然誰かが銃を撃って気球を壊しちゃったの。
二人組、だったかな。顔も姿も全然覚えてないけど、でもその二人がわたしたちを気球から引きずり降ろした。
あの時のお母さんの悲鳴がまだ耳に残ってるよ。
二人組はまずお母さんから殺した。
何か怒鳴ってたのは覚えてる。質問、だったのかな。お母さんは泣き叫んで、お父さんは必死に許しを求めていた。
でも結局、望んだ答えは得られなかったのか、お母さんはそのまま殺されちゃった。
次はお父さんの番だった。
近くの木に拘束されて、お母さんの死体を目の前に置かれて、指を一本一本切り落としていってた。二人組はお母さんに聞いたことと同じことを言ってたと思う。
でも、やっぱりお父さんは殺された。
拷問の最中、手足を切り落とされて。
最後はわたしの番だった。
気球の陰に隠れてたけど、あっけなく見つかった。
それでわたしは地下街に売り飛ばされたの。
そこからは、よく覚えてない。どうやって家に帰ったのかも、わからない。お母さんとお父さんを殺したのが誰なのか、多分わたしは知らずに生きていくんだろうね。
ずっと、言えなかった。あの時のことを思い出すと、辛くて、怖くて。……ごめんなさい、おじいちゃん。
本当はちゃんと話そうと思ってた。でも、でも、できなかった。ただでさえ辛い状況にいるおじいちゃんをさらに辛くさせちゃうと思って。これ以上、おじいちゃんに苦しんでほしくなくて。
……アルミンのことはわたしに任せて。大丈夫。一人前の男にしてみせるから。だから今は──
「ゆっくり休んでね」
アリアはペンを手放した。
祖父の訃報があったのは、半年ぶりに行われる壁外調査の前日だった。
麦わら帽子だけが、帰ってきたそうだ。