第6章 お前が雨に怯えるのなら
「一週間後にウォールマリア奪還作戦を行うと、聞きました。祖父はそれに徴兵された。体の弱い、祖父がッ」
堪えられなかったのか、次の瞬間アリアは大粒の涙を流した。
嗚咽を繰り返し、目元を乱暴に拭う。涙で濡れた青い目がエルヴィンを見上げた。
「避難所へ、行く許可を。外出許可を、いただきにきました」
一ヶ月後に控える入団式で兵団内は騒がしかった。その中での外出だ。
アリアは断られるかもしれない、というように身構えている。いや、それだけではない。
エルヴィンは、アリアの目の中に不穏な光がちらつくのを見た。
「アリア」
アリアも見透かされたことをわかったのか、慌てて目を逸らす。
だがもう遅い。
「君は、おじいさんを止めようとしているな?」
エルヴィンの一言にアリアの肩が跳ねた。
「この徴兵は王直々の勅令だ。断れば反逆罪と見做され、処刑されてしまうだろう」
「でも、しかし、わたしは」
「もちろんそれを引き止めた者もだ。君はそれでもいいのか?」
「だってこんなの、」
まるで子どものように首を振り、アリアはエルヴィンの兵服を握りしめた。
「こんなの、あんまりですッ!!」
エルヴィンはすぐさま立ち上がり、開きっぱなしのドアを閉めた。
どこで誰が聞いているかわからない。念には念を、だ。
アリアのそばまで戻ったエルヴィンは、少しでも落ち着かせようとソファーをすすめる。だがアリアは動かなかった。血走った目でエルヴィンを見上げた。
「どうせこれは避難民の口減らしです! 抱えきれないから、殺すのです!! 避難民だけをッ!!」
唇がわななき全てを吐き出すように叫ぶ。
ここまでアリアが感情的になるのを、エルヴィンは初めて見た。
「ろくに戦えもしない人たちがなぜ巨人の餌にならなければいけないのですか!? 戦うのはわたしたち、調査兵団の役目です! それなのに、なぜ!! なぜ、祖父は、王政からの命令一つで命をドブに捨てなければいけないのですか!? エルヴィン団長はっ、」
エルヴィンの胸ぐらを掴み、アリアは慟哭(どうこく)した。
「わたしに、家族を見殺しにしろと言うのですか!?」