第6章 お前が雨に怯えるのなら
エルヴィンの元にウォールマリア奪還作戦を決行すると知らせが来たのは、彼が団長に就任してからわずか一週間後のことだった。
当然、調査兵団を奪還作戦に向かわせる資材も金も不足している。
ならば誰が行くのか?
「……ウォールマリアからの避難者、20歳より上の男」
皆が故郷を取り戻そう。求む英雄、至難の戦場、生還の暁には名誉と報酬を得る。
人を鼓舞するような文を書き連ねてはいるが、実際のところこれは口減らしだろう。
エルヴィンはため息を吐き出し、紙を握りしめた。
人類は領土の三分の一を失った。
当然、それだけ畑や牧場は無くなった。家畜も大量に失ってしまった。避難民全てを賄っていけるほど食料はない。ならば、どうするか。
「巨人の腹の中におさまれと、そういうことか」
ただ飯を食うだけの役立たずは巨人の餌にしてしまえ。
王政の意図をエルヴィンは理解してしまった。
ただの避難民に巨人は倒せない。ウォールマリアを奪還など夢のまた夢だ。それなのに行うということは、よほど切羽詰まった状況なのか。
「エルヴィン団長ッ!」
その時、ドアが乱暴に3回ノックされ、鮮やかな金髪が執務室に転がり込んできた。右手に紙を握りしめ、息を荒げて、女はエルヴィンを見た。
「アリア」
彼女の名を呼ぶ。常に礼儀正しい彼女がこんなにも不作法にエルヴィンの前に現れたことはない。
体が小刻みに震えている。目が泳ぎ、その場に崩れ落ちた。
「弟、から手紙が」
エルヴィンは気遣うようにアリアに近づき、肩に手を乗せた。近くで見ると、彼女の顔はゾッとするほど蒼白だった。
アリアはエルヴィンに持っていた紙を押し付ける。
「祖父が、祖父が」
エルヴィンは握りしめられ、しわくちゃになったそれを広げた。
拙い文字が記されていた。書き手が涙をこぼしたのか、ところどころ文字が滲んで余計に読みづらい。だが、端的に書かれていた。
おじいちゃんが徴兵された