第6章 お前が雨に怯えるのなら
「……え?」
予想外の言葉だった。
私情? いったいどこに私情なんか。
「俺はお前に死んでほしくない」
グラグラと頭が揺れた。リヴァイの言葉を理解するのに少し時間がかかった。
「し、んで、ほしくないって、そんな理由で? 調査兵団に入った以上、死ぬ覚悟なんてとうにできています。死ぬつもりはないけれど、でも」
「だからこれは私情だ。俺の知らないところでお前が死ぬところを想像すると耐えられなくなる。遺体さえ残らねぇかもしれない。だが、俺が近くにいれば、もしかしたら……それを防げるかも、しれねぇだろ」
両手が震えた。
いろんな感情が噴き出して、怒ればいいのか、喜べばいいのか、泣けばいいのか、アリアにはさっぱりわからなかった。
「リヴァイさんらしく、ありませんね」
「……あ?」
「リヴァイさんは私情なんかに流されず、合理的に物事を考える人だと思っていました」
「お前が勝手にそう思っているだけだろう。俺は、感情的に動く方だ」
ぶっきらぼうにリヴァイは言った。
その瞬間、アリアの脳裏にナスヴェッターの姿が浮かんだ。
ベインとオトギに殴られ、折れた右腕のリハビリに励んでいるときだった。見舞いに来たナスヴェッターが思い出したように言ったのだ。
『もし僕が止めなかったら、リヴァイさんは二人を殴り殺してただろうね』
どういう話の流れでそうなったかは覚えていない。だが、なぜかその言葉だけがくっきりと頭に残っていた。
たとえ相手がどれだけクズだろうと、殺してしまえば殺した方が罪は重い。だがあの時のリヴァイはそんな考えなど持たず、怒りに任せて二人を殺そうとした。アリアのために怒り、拳を振るったのだ。
アリアは全身から力を抜き、息を吐いた。
リヴァイという男の本質を理解していなかったのはアリアの方だった。
「どうして、わたしに死んでほしくないんですか? わたしとリヴァイさんはまだ会って一年も経ってないじゃないですか」
やはり聞くか、とでも言いたげにリヴァイの目元が歪んだ。