第3章 正しいと思う方を
夕焼けが地面に2人の影を落とす。
「……行かないで。ずっといてよ、姉さん」
ぐずぐずと鼻を鳴らすアルミンをアリアは優しく抱きしめた。
もうすぐアリアは帰らなくてはならない。入団式まであと2時間に迫っていた。
見送りに来てくれたアルミンは最初こそ笑っていたが、祖父に挨拶をし、馬に乗った姉を見た途端泣き出してしまったのだ。アルミンの後ろで祖父が困ったように眉を下げている。
「ごめんね、アルミン。また来るからそのときまで待ってて」
「なんで、なんでいなくなっちゃうの? 寂しいよ……」
ずっと我慢していたのだろう。
滅多にわがままなど言わず、祖父とアリアを困らせたことなどなかった弟がここまで泣いてしまうなんて。
アリアはアルミンを抱きしめる力を強めた。
「姉さんも寂しい。ずっとここにいたい」
「なら」
「でもね」
一つ一つ、しっかりとアルミンに伝わるように言葉を紡ぐ。
「姉さんはやらなきゃいけないことがあるの。姉さんは調査兵団に入って巨人をこの世からすべて駆逐して、そしてアルミンに海を見せてあげたいの」
「……うみ……?」
「そう。海。ずっと憧れていたでしょう? それをあなたに見せるために姉さんは戦わないといけないの。……ごめんね」
アルミンは黙る。鼻をすすってはいたが、涙はもう止まっていた。姉の言葉を受け止め、それを自分の中に落とし込もうとしていた。
「それにね、この世から巨人がいなくなったら姉さんは戦う理由もなくなるからずっとここにいられるよ。アルミンのそばにいられる。だから……少しだけ待ってて」
「………………うん」
やがて聞こえたのは消えそうなくらい小さな、しかし心を決めたような声だった。