第6章 お前が雨に怯えるのなら
リヴァイの掲げるランプの光は歩く二人の足元を照らす。まだ眠気の残る目をこすり、アリアは無言で部屋を目指した。
リヴァイもまた、何も喋らない。無理に喋る必要がなかったからだ。
「リヴァイさん」
どれだけ無言の時間が過ぎただろうか。
もうすぐ自室へと着くとき、アリアは口を開いた。足元に目を落とし、ブーツのつま先を見つめる。
「なんだ」
返ってきたのはいつも通りの声だった。
初めて会った時はこのぶっきらぼうは声にビビり散らかしたものだが、今となってはむしろ耳に馴染むいい声だと思う。好きな人だから、というのもあるかもしれない。
「リヴァイさんはどうして私を特別作戦班に選んだんですか?」
「……前にも言っただろう」
「わたしがリヴァイさんを怖がることなく話ができるから、でしたっけ」
「もちろんお前の実力も考慮して──」
「本当に?」
アリアは立ち止まった。数歩遅れてリヴァイも止まる。
視線を上げようとして、ためらった。なんでもない、とうやむやにしてしまおうか。そんな考えが過ぎる。
「何が言いたい」
リヴァイの声に僅かに力がこもる。だが怒っているわけではなさそうだ。
意を決して、アリアは顔を上げた。
真正面から視線がぶつかる。手元のランプに照らされて、彼の瞳が美しく輝いた。
「今日、エルマーさんから言われました。わたしの実力とこの班の実力は見合っていない、と」
それは事実だ。否定する気はない。
アリアはまだまだ新兵で、リヴァイやエルマーたちのように巨人をたくさん殺したわけでも、5年以上調査兵団で生き残ってきたわけでもない。
それはちゃんとわかっていた。
「実力がないのなら、それを鍛えるだけです。訓練を積み、死なないように、戦えるようにするだけです。わたしもこの班を抜けるつもりはありません」
コツコツと努力をする。アリアはそれを得意とする人間だった。