第6章 お前が雨に怯えるのなら
強さを追い求めたのは、いじめられたからだった。
父親がいないという理由でエルマーはいじめられた。
そこからエルマーが理解したのは、今の自分にこいつらを殴り返す強さがないということだった。
「強ければ他人にバカにされることもない。強ければ死なない。強ければ強いほどいい」
ふんす、と鼻の穴が膨らむ。アリアはぽかんと口を開けたままエルマーの話を聞いていた。
「だからこそ俺はリヴァイのような強さに憧れている。エルヴィン分隊ちょ、いや、団長か? ……まぁ、いいか。とにかく、エルヴィン分隊長のようなリヴァイとは違うベクトルの強さにも憧れている。世の中にはそういう強さも必要だからだ」
強さとはなにも物理的なものだけじゃない。
高い知能、人を導くカリスマ性もまた強さのうちだった。
「俺はだれよりも強さを追い求めている。強い奴は好きだ。だからアリア。俺はおまえのことを気に入った。今、ついさっきからな」
「……遠回しにわたしに特別作戦班を抜けろと言ってきたのはエルマーさんじゃないですか。わたしが弱いから。なのにどこにわたしを気に入る要因があったんですか?」
「俺は遠回しに伝えることが苦手だ。それにおまえに班を抜けろと言った覚えはない。ただ聞いただけさ。この班に見合う実力を持っていると思っているのか? ってな」
「一般的にはそれを遠回しって言うんですよ」
言ってから、アリアは首を傾けた。
「それで、どうしてわたしを気に入ってくださったんですか?」
「おまえが強いからに決まってる」
「ですから」
「強さとは人を殴ることだけじゃない」
アリアのわずかに困惑を含んだ声をエルマーはかぶせ気味に遮った。
「おまえに意思はないが意志を感じた。弟のために命を捨てるような変人だが、弟のために命を懸けることができる人間だ。そしてそれもまた、強さだ」
「…………」
「だから俺は、そんな強さを持つおまえを気に入った」
ニカッと歯を見せて笑う。
エルマーの言葉にアリアがなにを思ったのかはわからない。だが、気が抜けたように笑っただけだった。