第6章 お前が雨に怯えるのなら
「わたしはこの班を抜ける気はありません」
エルマーは黙った。彼女の真意を探ろうとして、「どうして?」というありきたりな言葉しか出てこなかった。
アリアは全身に力を入れているかのように拳を握りしめていた。
「たしかに最初言われたときは、どうしてわたしがと思いました。辞退しようと思ってました。でも」
ゆるくかぶりを振る。それに合わせてほどけかかった金髪が夕日を反射した。その眩しさに思わず目を細くする。
「でも、そうしなかったのはナスヴェッターさんが言ってくれたからです。アリアと僕がいれば、どんな巨人だって怖くないって。わたしはそれが嬉しかったんです」
なにを馬鹿な、とエルマーは思った。
たった一人の言葉だけで命を捨ててしまうのか。
だがアリアの言葉は止まらない。
「ナスヴェッターさんがわたしの実力を信じてくれている。それに、リヴァイさんがわたしを認めてくれた。だからわたしはこの班にいようと決めたんです」
アリアの口元に自嘲的な笑みが浮かんだ。
「まぁ、リヴァイさん曰くわたしを班に入れたのはわたしがリヴァイさんと会話できるからって理由もあるらしいですけど」
ため息と共に彼女は言葉を吐き出す。
エルマーはじっとアリアを見下ろした。
「……でも」
不意にアリアは顔を上げた。視線がぶつかる。その目の中に一瞬狂気的な光が見えた気がした。
「でも、一番の理由は弟のためです」
胸に手を当て、微笑する。
エルマーはその姿をどこかで見たことがあった。
(……あぁ、思い出した)
幼い頃に連れて行かれた、ウォール教の集まりで見たのだ。
みな静まり返り、胸の前で手を組んで微笑みを浮かべていた。壁を神とたたえ、信仰する姿はいっそ清々しいほどに狂っていた。
そのときの信者たちの目と、声が、アリアを見て思い出された。