第6章 お前が雨に怯えるのなら
対人訓練も終わり、スパルタすぎるリヴァイの指導により全身が悲鳴を上げるのを聞きながら、エルマーとアリアは訓練場を歩いていた。
互いに汗と土にまみれ、疲労の色を顔に浮かべていたが歩くことはやめなかった。
「あの、エルマーさん。お話とは」
ついにアリアが口を開いた。僅かに進む足が緩くなる。
「……おまえは、なぜこの班に入ろうと思ったんだ」
エルマーは前を向いたまま聞いた。
アリアは一瞬黙り、考えるように眉根に力を入れた。
「リヴァイさんに選ばれたからです」
よく通る声だった。それのみが事実だと言い切っていた。
エルマーはアリアを盗み見る。目は合わなかった。アリアが前を見ているからだ。
「自分の実力が少数精鋭と呼ばれるだけの自信はあるのか?」
エルマーは回りくどいことが嫌いだった。
単刀直入で聞き、ずかずかと人の心に押し入って嫌われることもよくあった。だが、アリアは不快そうな顔はしなかった。どこか悲しそうに唇を歪めただけだった。
「わたしは」
アリアの足が不意に立ち止まった。
エルマーも夕日を背負い、振り返る。俯いてしまったアリアの表情は何も見えない。
「わたしはまだ2回しか壁外調査に行っていません。巨人討伐数だって、片手で数えられるほどです。立体機動訓練のたびに、巨人の怖さを思い出して震えてしまいます。精鋭なんて、呼べるはずもありません」
ポツリポツリと言葉を選んでゆっくり話すアリアを見下ろしながら、エルマーは静かに息を吐いた。
彼女はきちんと理解していた。己の実力と求められる実力が合っていないことを。
「班を退くことが言い出しづらいのなら、おれが代わりにリヴァイに言ってやろうか?」
そう言ったのは親切心からだった。直々に選ばれた班を抜けると告げるのは、勇気のいることだからだ。
アリアは弾かれたように顔を上げた。
いつも柔和に揺れる瞳は怒りと悔しさに溢れ、エルマーを射抜いた。そんな目をするのか、と心のどこかが驚く。
「嫌です」
アリアは腹の底から搾り出すように言った。