第6章 お前が雨に怯えるのなら
エルマーは常に強さを求める男だった。
今から5年前に調査兵団に入団し、幾度も壁外調査に赴き、何体もの巨人を葬ってきた。
強さがあれば死なない。強ければ強いほどいい。弱いままではいたくない。ストイックな人間だった。
だからこそ、己が特別作戦班という少数精鋭しか集まらない班に選ばれたと知った時は誇らしかった。当然だと思った。班のリーダーも入団から一年ちょっとで凄まじい戦果を出しているリヴァイだ。この班で力を発揮できるのが嬉しかった。
メンバーも、頼りないが立体機動の腕は申し分ないナスヴェッターにそれなりの年月を調査兵団として生き抜いているカミラだ。だが問題はもう一人の女──
「アリア・アルレルト……」
メンバーの顔合わせ後、初めての合同訓練。
立体機動訓練の後、対人訓練へ移る手筈だった。
リヴァイと話しながら、準備体操をするアリアの名を口の中で呟く。
この班の中で、彼女が一番実力が低い。入団したのも去年で、壁外調査にもまだ2度しか行っていない。
表情を引き締め、飛翔したアリアを見上げ、腕を組む。
訓練兵を首席で卒業したと聞いていたが、飛び方も少し上手いというくらいだ。精鋭とは言えない。
なぜリヴァイはアリアを入れたのだろう。
(まさか、コネかッ!?)
リヴァイから細やかなアドバイスをもらっているアリアの後ろ姿を眺め、ふと思い至る。
そういえばアリアとリヴァイが一緒にいるところをよく見かけるではないか。その時に媚を売っていたに違いない。
実力の伴わない班に入れば、早死にする危険性が高まるだけだ。まだ経験が浅く、若い兵士をみすみす殺すわけにはいかない。それだけはしてはいけない。
エルマーは眉間に皺を寄せた。
ここは先輩として、後輩にきちんと教えてやらなければ。
もう、後輩が死んでいくのは見ていられない。
「アリア」
「エルマーさん」
手帳に言われたことを記していたらしいアリアは、エルマーに名前を呼ばれて顔を上げた。
「訓練後、少し話がしたい。いいか」
驚いたように目を見開いたのち、彼女は真剣な表情で頷いた。