第6章 お前が雨に怯えるのなら
こうなればもうやけくそだ。ストレス発散をしないとやってられない。
翌日の早朝。カミラは寝不足で冴えない頭のまま、訓練場に来ていた。
ちょうど朝日が昇ってくる頃だ。遠くの空には薄紫の雲が横たわっている。澄んだ空気を目一杯吸い込み、ストレッチを始めた。
また近く、リヴァイの指揮のもと立体機動訓練があると聞いている。
その時にアリアとは話そう。
そうだ。別に無理して今すぐ話す必要はない。同じ班なんだから自然と話す機会も増えるはずだ。多分。きっと。……おそらく。
アリアに固執し、他のメンバーとの交流を疎かにしていたことを反省しながら、カミラはグリップを握りしめた。
助走をつけて跳び上がる。わずかに冬の気配を残す冷えた風が頬を撫でた。
空を縦横無尽に翔けながら、さまざまなことが頭を巡る。
今度入団してくる新兵のこと。
アリアのこと。
班長であるリヴァイのこと。
故郷にいる両親のこと。
戦死してしまった幼馴染のこと。
息を吐けばそれに合わせて心臓が鳴る。いつの間にか垂れてきた汗を拭ったとき、一際強い風が吹き荒れた。
タイミング悪く、アンカーを木から離していたカミラはバランスを崩してしまった。空中で大きく体をばたつかせる。咄嗟に体勢を立て直そうとするが、無理な姿勢から放たれたアンカーは木に刺さらなかった。
「あ」
緩やかに体が下へと落ちていく。
このまま落下すれば、死にはしないが大怪我だろう。せっかく実力を認められ、特別作戦班なんて大層な班に入ったというのに。
「カミラさん!」
大きな声が聞こえた。
びゅう、と猛スピードで何かが風を切ってこちらに近づく。遅れて衝撃があって、カミラは己の体が軽く浮くのを感じた。
「カミラさん、ご無事ですか!?」
誰かに抱えられていた。呆然とするカミラは風でなびく髪を押さえ、命の恩人の顔を見た。
「アリア……」
額に汗を浮かべたアリアが、険しい顔で前を見据えていた。