第6章 お前が雨に怯えるのなら
カミラは可愛いものが好きだった。
幼い頃から背は高く、外でよく遊んでいた肌は浅黒い。キッとつりあがった目尻も、頬を横断するそばかすも、カミラという人間を構成するものだった。
だが、だからこそ、彼女はいつも男の子のように扱われていた。
そして、体を動かすことが好きだったカミラは調査兵団で兵士となった。
そこでもカミラは男のように扱われた。悲しいことに女友達ができなかった。
しかし、カミラは可愛いものが好きだった。
たとえ周りから「似合わない」だの「お前らしくない」などと言われても、彼女は自分の好きなものを曲げる気など毛頭なかった。
「アリア・アルレルトです」
柔らかな日差しの差し込む部屋。
カミラは新たな班のメンバーと顔合わせをしていた。
そこで彼女と出会った。
「調査兵団に入団してまだ一年ですが、精一杯訓練に励み、成果を残せるよう尽力します」
凛と澄み切った声をしていた。
動きに合わせ、丁寧に編まれた三つ編みが揺れる。
よく動きそうな大きな青い瞳は、班員一人一人を映していた。
その姿はまさに、カミラの好きな「可愛い」だった。
「ナ、ナスヴェッター、です。よろしく、お願いします」
「エルマーだ! この中では最年長だな!」
「リヴァイだ」
そのほか三名の自己紹介など耳にも入らなかった。
カミラの目は、ただ一人。アリアにのみ注がれていた。
「アリア」
当然、顔合わせが終わった後、カミラは早速アリアに話しかけた。
「アリア、この後時間があるなら訓練に付き合ってほしんだけど……」
「もちろんです!」
だが、カミラの声はアリアには届かなかった。
もしゃもしゃの髪の男、ナスヴェッターに遮られたのだ。
ぎろり、と男を見る。
その視線に気づいた彼は、ヒッと短い悲鳴を上げた。
カミラにその気がなくても、鋭い目つきのせいで睨んでいると勘違いされることが多々ある。これもそのうちのひとつだった。
(まぁ、いいさ)
訓練場へと歩いていく二人の背中を見ながら、カミラは腕を組んだ。
同じ班になったのだ。
話すタイミングなどいくらでもある。まだ焦る必要などない。