第6章 お前が雨に怯えるのなら
リヴァイの小さな声。それに真っ先に反応したのはハンジの噴き出す音だった。
「リヴァイが調査兵団に入って一年とちょっと。地下街のゴロツキで粗暴だし目つきは鋭い。いくらリヴァイの実力が凄くても怖がる兵士がほとんどだ」
さっきまで張り詰めていた空気はハンジの明るい声でみるみる穏やかなものへと変わっていった。
アリアの隣でリヴァイはなにも言わずにただ立っていた。否定しないということはハンジの言う通りなのだろう。
「そんな近寄りがたい男が上官で、しかも命を預けなくてはいけない。もしアリアがその立場だったらどうする?」
ハンジの言いたいことを理解し、思わず脱力した。
「つ、つまり……わたしは実力で選ばれたのではなく、リヴァイさんと会話ができるから、という理由で選ばれたんですか?」
「もちろんお前の実力も考慮してる」
むすっとリヴァイが言う。
いろいろな感情が入り混じり、アリアはどんな表情をしていいのかわからなかった。
「ナスヴェッター、カミラ、エルマーの三人も特別作戦班に入る」
リヴァイの言葉に、幹部たちに混ざって壁際に立っていた大柄な男と、長身の女が反応した。どちらも名前は知らないが、調査兵団の古参兵士だ。
「ナスヴェッターさんも一緒なんですか!」
「え」
突然名指しされたナスヴェッターはぽかんと口を開けていた。
「な、なんで僕が」
「さっきキースも言っていたが、この班は試験的なものだ。壁外調査が始まるまでに訓練をして、それから巨人討伐に挑む。そして戦果を上げれば正式に班として認められる手筈だ」
「あ、無視……」
リヴァイに訓練をつけてもらえるのなら少しは巨人とまともに戦えるようになるだろうか。
アリアはこの数分の情報量の多さに痛くなってきた頭を押さえた。
「では、そろそろ解散にしようか」
そんなアリアの気持ちが伝わったのか、エルヴィンが声を出した。ぞろぞろと幹部たちは団長室から出て行く。
「こ、これからよろしくお願いします、リヴァイ……兵長」
言い慣れないな、なんて思いながら呼ぶと、彼も気持ち悪そうに顔をしかめていた。
「あぁ」
ぶっきらぼうな返事に笑いがこぼれた。