第6章 お前が雨に怯えるのなら
しばらくの沈黙が続いたのち、ゆっくりとキースの顔が上がった。
全員が黙り、団長の無念を、思いをその胸に刻んでいた。
「エルヴィン、後は任せた」
キースの言葉に「はい」と返事をし、エルヴィンが座っていたソファから立ち上がった。
すっと伸びた背筋。意志のこもった青い瞳。全てを背負った表情。アリアはなぜか悲しみが心に広がるのを感じた。
「三ヶ月後、延期されていた入団式が行われる。それまでにどの班、または分隊にどの新兵を編入させるか決めておく必要がある。会議の予定は追って知らせるつもりだ」
「壁外調査の予定はまだ決まっていないの?」
手を挙げてハンジが質問する。エルヴィンは無言で頷いた。
「おそらく半年は無理だろう。資金が全て避難民のために使われる。壁外調査を行なっている余裕はない」
「あ、あの」
ハンジに乗じてアリアもそろそろと挙手した。
ここに来てからずっと聞きたかったことがあった。本当はもっと早くに聴かなければならないことだったのだろうが。
「どうしてわたしはここに呼ばれたのでしょうか?」
アリアはただの平兵士だ。入団してからまだ一年ちょっと。こんな幹部ばかりが集まる場所に参加することは本来あり得ない。
アリアの問いかけに答えたのはエルヴィンではなく、リヴァイだった。
「お前は特別作戦班に入る」
「……え?」
我ながら間の抜けた声がでた。
ほかの幹部たちもざわつき、興味深そうにアリアを見た。
「わ、わたしが、ですか? なんで……巨人と戦ったのだって数えるくらいしかないのに」
腕を組んだリヴァイはなぜか渋い顔をしていた。
一方でアリアは焦りまくっていた。特別作戦班なんて重要そうな班に入るなんて聞いていない。いくら訓練兵を主席で卒業したと言っても、本物の巨人を目の前にすれば非力な兵士に他ならない。
顔を青くさせるアリアにリヴァイが言った。
「俺を信頼してくれそうな兵士が、お前くらいしかいなかったんだ」