第6章 お前が雨に怯えるのなら
馬を使う距離でもないのに、リヴァイは馬に乗って来ていた。それほど急ぎであることが伝わり、アリアの中で不安は増した。
「後ろに乗れ」
「はい」
リヴァイの後ろに乗り、おずおずと腰に手を回す。
いったい、何が起こっているのだろうか。
「掴まっておけ。走るぞ」
言うや否や、馬は走り出した。
どこか雨の匂いのする風を感じながら走る。
髪がなびく。目を閉じる。リヴァイの背中に額を当てた。
*
リヴァイと共に団長の部屋へと向かう。壁が破壊されたときのように、どことなくざわついた、落ち着かない空気が兵舎全体に流れていた。
「入るぞ」
一言声をかけ、ノックもせずにリヴァイは団長室のドアを押した。
部屋の中には幹部たちがずらりと並んでいた。思わず背筋が伸びる。
しかし、その中にナスヴェッターの姿を見つけた。彼も呼び出されたのか。
「急に呼び出してすまなかったな」
一番奥の椅子に座っていたキースが神妙な面持ちで言った。
「い、いえ。あの、それでいったいなにが……」
これからなにが行われると言うのか。
アリアが問いかけると、キースは一度頷いた。
「もう聞いている奴もいるだろう。私は──団長を退く」
たった一言。だがその一言はアリアから言葉を奪うには十分すぎるものだった。
それを事前に聞いていたのはエルヴィンだけらしい。ハンジやミケは信じられないものを見るかのようにキースを見ていた。
エルヴィンから「キースに団長になる話を持ちかけられた」とは聞いていたが、まさかこんな時期に交代するなんて。
よりによって壁内が混乱しているこの時期に。
「次期団長はエルヴィンだ。そしてこれを区切りとし、大幅な人事異動を行う。並びに試験的にではあるが、新たな独立した班を設ける」
突然告げられた情報量の多さに頭がついていけない。
アリアの隣でリヴァイが一歩踏み出した。
「特別作戦班。少数精鋭で構成されたこの班のリーダーはリヴァイ。お前だ」