第6章 お前が雨に怯えるのなら
彼らの手は傷痕やタコで荒れていた。なにかスポーツでもやっていたのだろうか。
3本の手はすぐに引っ込められた。
「ありがとうございます」
がっしりとした体格の少年が言う。それにつられるように長身の少年も小さな声で「ありがとうございます」と頭を下げた。アニだけがじっと手のひらの中のキャラメルを見つめていた。
「みんなの平和はわたしたちがきっと取り戻すから」
励ますように笑いかける。
右手を握り、左胸に当てた。
「だから、それまでどうか生きてね」
3人はなにか言いたそうに口を開け、しかしなにも言わずに口をつぐんだ。
アリアは3人の顔を見渡してから立ち上がった。
「姉さん!!」
彼らの奥でアルミンの姿が見えたからだ。
「アルミン!!」
声を張り上げ、アルミンの元へと駆け寄る。その小さな体を精一杯抱きしめた。両腕が首に回り、痛いくらいに抱きしめ返される。
肩口に顔を埋め、アルミンはすんすんと鼻を鳴らした。
「よかった、無事で……」
顔を上げると、エレンとミカサがこちらを見ていた。微笑み、手を伸ばす。
「2人もおいで」
アリアが言った瞬間、2人は駆け出し、アルミンを挟むようにしてアリアに抱きついた。
壁が破られてから数日。不安だっただろう。眠れない日々を過ごしただろう。それでも、それでも。
「生きていてくれて、ありがとう」
アリアの服を握りしめ、エレンは堰が切れたように泣き出した。
人の目を気にすることなく。声が枯れるまで泣き続けた。兵服に涙がしみた。それでもアリアは3人を離さなかった。
人が死ぬのは一瞬だ。ついさっきまで隣にいた友人が明日もそこにいるとは限らない。そんな世界でアリアは生きていた。
初めて友を亡くした日、アリアはひどく絶望した。同じ気持ちを幼い彼らには味わってほしくなかったのに。
「アリア」
「おじいちゃん」
静かにアリアのそばに祖父が立った。怪我もしていない。
彼はアリアの肩に手を置いた。
深い悲しみが触れられた箇所から染み込んでいく。
アリアは息を吐き、きつく目を瞑った。