第6章 お前が雨に怯えるのなら
避難所には重苦しい空気が満ちていた。
もともとウォール・ローゼに住んでいた市民たちも突然の避難民たちを避けるようにしている。避難民たちも家族や友人を失ったショックから立ち直れていない者や、ひたすらに絶望している者で溢れている。
その中を、アリアは歩いていた。
訓練を終えたあとそのまま来たため、兵服に身を包んでいる。時折声が投げかけられる。
「どうして夫を助けてくれなかったの!?」
「調査兵団さえいれば、被害は少なかったかもしれないのに」
「兵士はいいなぁ。住む場所があって」
好意的な声など一つとしてなかった。
唇を結び、前だけを見て歩く。アリアの頭の中はアルミンたちのことでいっぱいだった。
無事であることはわかっていたが、それでもこの目で確かめてみなければ安心はできない。きっと心細いことだろう。早く、抱きしめてあげたい。
足元を見ていなかったせいだ。
どん、と腰の辺りになにかがぶつかる感覚がして、アリアは視線を下ろした。
「あ、ごめんね。大丈夫?」
そこには1人の女の子がいた。
アルミンよりは少し薄い金髪。鷲鼻の少女は真正面からぶつかったというのに、ふらつくことなくアリアを見上げた。
「アニ、待てよ!」
「どこかに行ったら危ないって!」
少女の名前はアニというらしい。
アニを追いかけ、2人の少年が息を切らして走ってきた。その2人はアリアを見て、わずかに目を見張った。
「怪我はない?」
アニと目線を合わせるようにしゃがむ。彼女は1歩後ずさった。
「アニ、もう行こう」
ひょろりとした少年がアニの腕を掴む。
彼らも避難民だろう。アルミンたちと同い年くらいだ。
アリアは眉を下げ。ポケットに手を入れた。
「3人とも、手を出して」
怯えさせないように優しく声をかける。3人は相談するように顔を見合わせた。アリアがポケットから出したのは3つのキャラメルだった。
「疲れたときや不安があるときは甘いものを食べるといいよ」
アリアは包み紙の中身を見せるように開いた。それが危険なものではないとわかった彼らは恐る恐る手を出した。