第6章 お前が雨に怯えるのなら
アリアは半分眠りながら風呂に浸かっていた。
一刻も早く血と汗を洗い流すためにグリュックの世話を終えると真っ先に大浴場へ飛び込んだ。
エルヴィンやミケ、ハンジなどの幹部は今ごろ遺体と名簿の照らし合わせを行っていることだろう。風呂から上がったら手伝わなくては。
アリアと同じようにシャワーを浴びたり、湯船に身を沈めたりする女兵士たちは皆無言だった。いつもなら話し声のひとつやふたつあるのだが、そんな元気を残した人間はいない。
(そろそろ、上がろう)
ざば、と湯を揺らし、アリアは湯船から出た。
振り返って気づく。湯の中に赤いものが浮かんでいた。見下ろすと、太ももの間から同じものが垂れていた。
「さいあく」
ほかの兵士に見られる前に流そう。
ひらひらと指の隙間を抜けるそれを無言で追いかけて、ようやく外に出せた。
兵士をしている以上、どうしても周期が安定しない。壁外調査中に来なかっただけマシだと思うべきか。
ずぐずぐと下腹部が痛む。それを認識した途端に痛みが強烈になる。ダルさが肩にのしかかる。
(今日は、ツイてない)
さらに重くなった体と共にアリアは大浴場を後にした。
その数時間後だった。
エルヴィンの手伝いをしているとき、その知らせは突如として舞い込んできた。
──ウォール・マリアの壁が破壊された
その日から物語の歯車が少しずつ動き出す。
親を殺され、仲間を殺し、昨日の友を憎しむ戦いが幕を開けた。
だれもが己の正義のため、戦った。