第6章 お前が雨に怯えるのなら
どれだけ無言の時間が続いただろうか。
もうすぐ不寝番の交代の時間だ。
アリアに声をかけようとしたとき、リヴァイの肩にことん、と心地の良い重みが乗った。
「アリア?」
アリアは眠っていた。
今にも手から落ちそうなマグを回収し、肩からずれ落ちている毛布をかけ直す。
リヴァイが炎の前で声をかけたときは真っ青な顔をしていたが、温かい飲み物を飲んだおかげで頬には赤みが戻っていた。
そのことに安堵しながら、この状況をどうするかと頭を回した。
次の不寝番が来るまでもう少し時間はある。
それまで彼女を寝かせておくか。だが交代のためにわざわざ起こすのも忍びない。ようやく眠れたというのに。
(しばらくはこのままでいいか)
心の中で呟き、リヴァイはもぞもぞとフィットする体勢を探す。
ようやく落ち着いた場所を見つけ、アリアの顔にかかった髪をそっと耳にかけてやる。
雨という天気が彼女に及ぼす影響をリヴァイもよくわかっていた。
雨、壁外、それだけで大切な仲間を失った痛みが胸を刺すのだ。きっとその痛みが癒えることはない。だからこそ、辛い。
その上、アリアは負傷兵の手当も行っていた。精神的にも来るものがあるのだろう。
「大丈夫、大丈夫」
彼女が負傷兵たちにかけていた言葉を囁く。
大丈夫、大丈夫。
やまない雨はない。降り続く雨がやむことを願って、それまで耐えるのだ。
踏ん張って、耐えて耐えて耐え抜いて、その先にある雨上がりの空を目指して。
「大丈夫」
お前が眠れないと言うのなら、眠れるまでそばにいてやろう。
お前が雨に怯えるのなら、俺が傘を差そう。
俺は──
(お前のことが好きだ)
なんて。
まだ、言えない。