第6章 お前が雨に怯えるのなら
言われた通り塔へ登ったアリアはどこまでも続く地平線をぼんやりと眺めていた。それからすぐにリヴァイが姿を現す。
その手には新しい毛布とマグが握られていた。
「体は冷やすなよ」
言いながら、リヴァイはアリアの持つマグと自分のマグを交換する。
リヴァイの手元には少しぬるくなった紅茶が、アリアの手元には熱々の紅茶が渡る。
「あの、これ」
「気にするな」
床に腰を下ろしたリヴァイは毛布を肩からかぶり、手を温めるようにマグを両手で包むこんだ。アリアも同じように隣に座る。
「わがまま言ってしまってすみませんでした」
「どうせ暇になるんだ。話し相手がいてくれたほうがいい」
普段のアリアなら嬉々として喋っていただろうが、生憎今のアリアにそんなことをする体力は残っていない。
このままではただの邪魔者になってしまう。
「この紅茶は」
なんとかして話題を探していたアリアより先にリヴァイが言った。
包み込んだマグを見下ろしている。
「この前買ったキャラメルの紅茶だ」
促され、一口飲んでみる。
こってりとした甘さがアリアの体に染み渡る。思わずほう、と息を吐いていた。
「疲れたときは甘いものが1番だ」
「たしかに、そうですね」
雨は降っている。
血のにおいも呻き声もアリアから離れることはない。
「おいしいです」
だが今は。今、この瞬間だけは。
「とってもおいしいです」
心が安らいだ。