第6章 お前が雨に怯えるのなら
降り出した雨は静かに、だが確実にアリアの衣服に染み込んでいく。
炎の周りに立っていた兵士たちは疲れたように首を横に振り、割り当てられたテントへと戻っていった。
「疲れた」
声に出してみる。
壁外調査はこれで2度目だ。しかし、前回の壁外調査では死傷者の数が多すぎて1日で帰還した。そのため、こうして壁外調査が何日にも及ぶのをアリアは初めて経験した。
正直に言ってしまえば今すぐふかふかの布団で眠りたい。
怪我を負った仲間の呻き声はアリアの体から立ち上がる気力を奪っていく。テント内に満ちた鉄臭さはアリアから食欲を奪っていく。
「つかれた」
もう1度呟く。
空を仰ぐと、どんよりと重苦しい雲のせいで星や月は見えない。このままの天気が続けば明日は朝から本降りになるだろう。
そうなったとき、果たして自分は生き残ることができるだろうか。
思考がどんどん悪い方向へ転がっていく。
(だめだ、こんなこと考えてちゃ……生き残れるかじゃない。生き残るの)
そう強く自分に言い聞かせる。だが、立てない。今にも尻から地面に沈み込んでしまいそうだ。
「おい、大丈夫か?」
後ろから声が聞こえる。
振り返ると、リヴァイが怪訝そうな顔でアリアを見ていた。
「もう夜も遅い。そろそろ寝たらどうだ?」
「リヴァイさんは?」
マントを着て、立体機動装置を装着している彼の手には毛布とほかほかの紅茶が入ったマグがあった。
思わず聞き返す。
「これから不寝番だ」
「ふしんばん……」
リヴァイは拠点の端に設置されている見晴らしのいい塔を指差した。
「あそこだ。夜で巨人が動かないとは言え、警戒を怠る理由にはならない。エルヴィン直々の指令だ」
面倒臭そうに言うリヴァイだが、それが必要なことだと理解しているのだろう。早く寝ろよ、とアリアに言い残し、塔のほうへと歩いていく。
「あの、」
咄嗟にその背中に向かって声をかけていた。
あれだけ重たかった体がすんなりと立ち上がる。
「なんだ?」
「わたしも、隣にいてもいいですか?」
リヴァイは一瞬驚いたような顔を見せたあと、持っていた毛布とマグをアリアに渡した。
「先に行ってろ」