第6章 お前が雨に怯えるのなら
ガス、ブレード、共に満タン。立体機動装置にも損傷はない。
「よし」
野戦糧食を一欠片口に押し込み、気合を入れ直す。
ここに来るまでに10名以上の死傷者が出ている。これ以上増やさないように気を引き締め直さなければ。
「アリア」
不意に声をかけられ、アリアは振り返った。
なにかを探すようにきょろきょろとするエルヴィンだった。
「どうかされましたか?」
「キース団長を見なかったか?」
「キース団長?」
エルヴィンはなにやら深刻そうな顔をしていた。
聞き返しながらもアリアは考える。ついさっきどこかで見たような気がする。
「あ、たしか馬に水をあげてましたよ」
「そうか、ありがとう」
「あの」
アリアに背を向けたエルヴィンを思わず引き留めていた。
どうした、と首を傾げながらエルヴィンはアリアを見る。
「なにか問題でもあったんですか?」
不安そうな気持ちが声に出ていたのか、彼はアリアを安心させるように微笑んだ。
「大したことじゃない。ただ……雨の匂いがする。前々回の二の舞だけは防がなくてはならないから念のため団長に報告するだけだ」
前々回の壁外調査。アリアの初陣で、親友と同期すべてを失ったあの壁外調査。あの日も土砂降りで長距離索敵陣形が一切機能しなくなったのだ。
「引き止めてしまい申し訳ありません。教えてくださりありがとうございます」
アリアが慌てて頭を下げると、エルヴィンはなんともないように手を振って、今度こそキースを探しに行った。
(雨、か)
ちらりと空を見上げる。
まだ雲より青空のほうが見えている。今日テントを張る予定のポイントまでは持ってほしいものだ。
「……怖いな」
壁内での雨なら平気だが、壁外調査での雨となると話は別だ。
あのときの恐怖が蘇る。
だれに言うでもなく呟き、アリアは堪えきれずため息をこぼした。