第6章 お前が雨に怯えるのなら
ナスヴェッターが飛んだのを見、アリアもブレードを抜いた。
鞍の上に立ち、前に倒れ込んだ巨人のうなじめがけてアンカーを放つ。刹那、ぐんっと体が引っ張られる感覚と共に体が浮いた。
2度目の巨人討伐。
緊張していないと言えば嘘になる。だがやるしかないのだ。
こちらを襲ってくる奴らには自分の命を懸けてでも抵抗しなければならない。
ブレードのグリップを握る手に力がこもった。
大きく振りかぶり、無防備のうなじにブレードを振り下ろした。皮膚、肉、筋肉が切れる感触がなまなましくアリアの手のひらに伝わってきた。
巨人の返り血を顔に浴びながら、アリアは地面に着地した。
「6m、討伐!」
「5mもだ!」
グリュックがそばに駆け寄ってくる。その頭を撫でながらアリアは辺りを見渡した。
目標の巨人はすべて討伐できたらしい。3体とも蒸気を上げながら地面に突っ伏している。
「アリア、よくやった」
「ナスヴェッターさん、ありがとうございます」
馬に乗ったナスヴェッターに褒められ、アリアも頬を緩めた。
顔についた血を拭い、グリュックに飛び乗る。そこにグリュックと同じ黒色の毛の馬が近づいてきた。
「リヴァイさんもありがとうございます。助かりました」
その馬に乗る男、リヴァイにナスヴェッターが頭を下げる。
「偶然近くにいただけだ。増援が来て助かった」
リヴァイはたった1人で9mの奇行種を殺したのだが、息切れひとつしていない。それどころか巨人の返り血も綺麗に拭われていた。
「もうすぐ補給地点だ。エルヴィン分隊長と合流しよう」
「わかりました」
同じ分隊の2人と集まり、ナスヴェッターが言う。
「リヴァイさんはどうされるんですか?」
アリアの問いかけにリヴァイは首を横に振った。
「俺も持ち場に戻る」
「じゃあ、また補給地点で」
「ああ」
手綱を引いて馬の向きを変え、リヴァイは駆けて行った。
その後ろ姿を少しの間見送り、アリアもナスヴェッターを先頭に駆け出した。