第5章 男が悪魔になることを望む女
リヴァイはアリアの言葉の意味を考えるように黙り込んだ。
アリアはゆっくりとリヴァイを見上げる。
「エルヴィンに脅されたからだ」
リヴァイの口からこぼれた予想外の言葉にアリアは驚いた。
「脅された? 分隊長がスカウトした、と聞きましたが……」
「スカウトなんてそんな綺麗なもんじゃねぇ」
鼻を鳴らし、リヴァイは薄く笑う。
アリアを見下ろしていた目線がふっと動いて窓の外を見る。
「憲兵団に引き渡されてぶた箱に突っ込まれるか、調査兵団で巨人と戦うかの二択だった。だから俺たちは調査兵団を選んだ。それに……」
「それに?」
「……俺たちには調査兵団に入らなきゃならない理由があった」
その理由とはなんなのか、アリアは聞きたかったが、リヴァイは言うつもりがないらしい。彼はそれ以上なにも言わなかった。
「……イザベルたちが死んで、調査兵団を辞めようとは思わなかったんですか?」
踏み込みすぎてはいけないとわかっていても、アリアは聞いた。
見上げるリヴァイの横顔が辛そうに歪んだ。
「思わなかった、と言えば嘘になる。だが、俺はエルヴィンについて行くと決めた。あいつは俺には見えないなにかを見ている。そのなにかを見てみたいと思った」
苦痛の表情が緩やかにいつもの仏頂面へと戻っていく。アリアは黙ってその横顔を見つめていた。
「急になぜそんなことを聞く?」
「……祖父に言われたんです」
手を組み、親指同士をくるくると回しながら口を開く。
「無理はするな、と」
視線が自分の手元へと流れた。
「わたしが調査兵団に入ったのは弟に外の世界を見せるためです。でもそれを言うと、みんな驚いたように聞くんです。弟のために自分の命を懸けるの? と」
みんなが口を揃えて言う。
そんな理由で調査兵団を続けられるの? もし死んで、弟が自分を責めたらどうするの? 自分の命を軽く見過ぎじゃない?
共に調査兵団を志した仲間はなにも言わなかったが、駐屯兵団や憲兵団を目指す同期たちは心底不思議そうに言うのだ。