第5章 男が悪魔になることを望む女
「す、すみません、わたし、あの、綺麗な顔だなってあ、いや、違うんです違わないけど違うんです!!」
わけのわからないことを口走り、アリアは誤魔化すように救急セットを顔の前に掲げた。
「手当、させていただきます!」
「あぁ、頼む」
アリアの挙動不審にはなにも言わず、リヴァイは大人しく怪我をした手を出した。
「少し染みるかもしれませんが我慢してくださいね」
消毒液如きでリヴァイが騒ぐとは思えないが、一応そう声をかけ、セットの中から消毒液とガーゼを取り出した。
表面についた血を拭い、傷口に消毒液を吹きかける。ビクッと手が動いた。声は出さなかったが、やはり痛いものは痛いだろう。
罪悪感をちくちくと刺激されながらも、ガーゼを当てて包帯を巻いていく。あっという間に手当は終わった。
「よし、できました」
「ありがとう」
「いえ! これくらいなんともありませんよ」
救急セットに使った道具を戻す。
「じいさんは大丈夫だったのか?」
不意にリヴァイが言った。
アリアはぱちくりと目を瞬かせた。
「どうしてリヴァイさんがそのことを?」
アリアが伝言を頼んだのはハンジで、それを受け取ったのはエルヴィンだけのはずだ。リヴァイに伝えた覚えはない。
不思議に思い聞くと、リヴァイは一瞬「しまった」というように顔をしかめた。
「……お前の姿が見えなかったから、ハンジに聞いた」
「そうだったんですね」
納得すると同時に嬉しさが込み上げる。
リヴァイが自分を探してくれた。その事実だけで心が舞い上がった。
それをなんとか顔に出さないようにアリアは咳払いをした。
「おかげさまで、わたしが帰るころには元の生活が送れるくらいには回復しましたよ」
「そうか。ならよかった」
パタン、と救急セットの蓋を閉じる。
立ち上がろうとしないリヴァイに、気づくとアリアは言葉を投げかけていた。
「リヴァイさんは、どうして調査兵団に?」