第5章 男が悪魔になることを望む女
「リヴァイさん、医務室に行っててください。グリュックとこの子を厩舎に戻しときますから」
「ほうっといたら治る」
「だめです。そこからバイキンが入って大変なことになりますよ!」
初めて見るアリアの圧にリヴァイは言われるがまま頷いた。
仕方なくアリアに手綱を渡し、兵舎のほうへ足を向けた。
医務室は静まり返っていた。
もうすぐ春が来る。そんな温もりの含んだ日光がカーテンの開いた窓から注がれる。手近な椅子に腰掛けたリヴァイは手のひらの傷を見下ろしながら、うとうととまどろんだ。
こんな傷、地下街にいたころはしょっちゅう負っていた。痛みにも慣れている。だからこそ、アリアに「手当をする」と言われたときには驚いた。
だが、その言葉は案外心地が良いものだった。
薄く開いていた目をゆっくりと閉じる。
眠気が少しずつリヴァイを包んでいく。
グリュックとリヴァイの愛馬を厩舎に戻したアリアは、エルヴィンに帰ってきた報告をし、医務室に向かった。
ドアを押し開き、中を見渡す。
リヴァイはあたたかそうな日光の中で腕を組んで眠っていた。
「リヴァイさん?」
そっと声をかける。しかし彼は目を覚まさなかった。
いつも深く刻まれている眉間のシワはない。初めて見たリヴァイの寝顔を思わずしげしげと眺めてしまう。
やっぱり綺麗な顔をしている。
まつ毛は長いし肌は白い。前回の壁外調査では10体以上の巨人を討伐し、陣形の崩壊をたった1人で防いだらしい。
こんなにすごい人がなぜ自分と話してくれているのか本当に謎だ。
不意にリヴァイのまつ毛が震えた。音もなく目が開く。
ぱちっと目が合った。
「お、」
「わっ、す、すみません!」
近い距離で見つめてしまっていたことに気づき、急いでのけぞった。