第5章 男が悪魔になることを望む女
「どうした?」
リヴァイは突然落ち着きをなくした愛馬に声をかけた。
これから訓練をするために鞍をつけようとしたのだが、足踏みをし始めて少し難しい。
鼻を上げ、空気を探るように動かしている。
初めて見る行動にリヴァイは困惑した。
「まさかアリアとグリュックが帰ってきたのか?」
手綱を握り、首筋を撫でる。ふと頭に浮かんだことを聞くと、愛馬はブルっと身を震わせ、唐突に駆け出した。
手綱を握った手のひらに熱さと痛みが走った。
驚いて手を見下ろすと、手綱で皮が捲れてしまったらしい。
ため息をつき、リヴァイは駆け出してしまった愛馬を追いかけた。
リヴァイの愛馬はいつの間にかグリュックと仲良くなっていた。
だが2日前にアリアがグリュックと共に実家に帰ってから明らかにしょぼくれていた。
「わ、ど、どうしたの?」
愛馬が行ってしまったほうからアリアの声が聞こえてきた。
本当に帰ってきたようだ。
「アリア」
「あ、リヴァイさん!」
グリュックに乗っていたアリアは不思議そうにリヴァイの愛馬を撫でていたが、リヴァイが来るのを見て顔を輝かせた。
愛馬はグリュックに頭をこすりつけている。グリュックも嬉しそうに鼻を鳴らした。
「悪いな、大丈夫だったか?」
愛馬の手綱を取り、聞く。アリアは微笑んで頷いた。
「はい。驚きましたが……お出迎えに来てくれたんですかね」
ぐっと手綱を引っ張るが、愛馬はグリュックのそばから動こうとはしなかった。よほどグリュックに会えて嬉しかったのか。
その様子を見ていると、なぜかだんだん恥ずかしくなってきた。
「リヴァイさん、その手どうしたんですか?」
グリュックを見つめていたアリアの目線がリヴァイの手元に流れる。
咄嗟に手綱を手放したが、アリアの目は誤魔化せなかった。
「怪我されたんですか?」
「いや、大したことじゃない」
「で、でも血が出てますよ!」
馬上から降りると、アリアはパッとリヴァイの手を取った。
皮の捲れた痛々しい手のひらが晒される。
ぎゅっとアリアの眉根に力が入った。